昔,昔の大昔,まだ文字も使われていない時代のことです。

 地球上の動物のなかでも,弱者である人類は生き抜くために知恵で各々集団を作って生活していました。

 その個々の集団の中で病人が出ると,仲間はその病人が回復するようにと願って,信じている,人力をはるかに超えた大いなるものにすがり,その指し示すところを,占いや,巫女などを通じて知り,その指示にしたがって手当をしたのだと思います。

 そのころ,巫女などの中に超能力の一種と思われる特殊の能力を持った人がいて,患者に種々の治療行為,すなわち体に種々の刺激を与えたり,動,植,鉱物など服用させたり,その他いろいろな方法の手当てをして病気を治したと想像します。

 集団で生活していた各地方の風土は,それぞれがかなりの特異性をもち,得られる薬剤の種類も土地によって種々異なり,その治療法も,その集団に属しているの能力保持者ごとに異なっていたと思います。

 しかし,困ったことに,集落ごとに,このような,頼れる能力者がいつまでもいるとは限りません。巫女と能力保持者とは本来無関係です。

 また,この能力を伝承することは不可能なことではないにしても,伝承するのに定まった方法はなく,伝承するには,子弟ともに多大の労力を必要とするばかりか,習練期間も,相当長期にわたります。

 以上の理由で,この特殊な能力を伝承するのは容易ではなく,さらに文明の発達による,生活,習慣,思想の変化にしたがって,次第に能力保持者の数は減少していきました。

 人々は,能力者がいないときに備えて,能力保持者が,それぞれの症状に対して行った治療法と,その説く事柄を記憶するように努め,能力保持者がいないときには,その記憶した治療法で病人を治療したのでしょう。

 時代は下って,記述するという方法が開発されると,特殊能力保持者が行った治療法と,説く事柄を記録する代わりに記録して,知識として蓄えるようになったと思います。